悪夢のシナリオ3−業界再編の行方− |
第1章で「悪夢の背景」、第2章で「その後の動き」と見てきたが、最後の第3章では十数年来燻ってきたNTTの分離・分割問題と、これに伴って展開されるであろう我が国通信業界の再編の行方について、私見を述べてみたい。なお、以降は憶測を含め、私個人の全くの独断と偏見によるものであることを予めお断りしておく。 |
NTTとKDDが主体となるのは明確である。鍵を握るのは、DDI(第二電電)と郵政省、JT(日本テレコム)と運輸省、そして電力会社(特に東京電力)と通産省である。当然ながら政治家がこれらに密着(癒着)する。 長距離・地域・移動体・国際・衛星それぞれの分野で自らの権益を守りかつ拡大しようとするこれらグループの動き、そして欧米キャリアのアジア進出が加速する中で、我が国の国益と国民の利便性をどう確保していくのかが再編の焦点である。
結論を先に示そう。これまでの様々な経緯や最近の動向からみて、大まかに下記の3グループに収斂されるのが自然の流れであり、望ましい姿であろう。 閉塞状況下が続き、高い通信料金、貧弱な通信環境、様々な規制など欧米に10年は遅れているといわれる我が国の現状を鑑みれば、一刻の猶予すら許されない。
先送りとなったNTT分離・分割問題のように、NTTと郵政の代理戦争に埋没し、国民不在のまま政・財・官のトライアングルの枠内だけの不毛な論議では、進展は全く期待できない。規制緩和の一大成功例として移動電話を喜々として語る政治家や官僚には、市場の実態など分かるべくもない。
悪夢のシナリオは移動電話ばかりではないのである。このまま閉塞状況が続けば、不利益を被るのは業界全体、そして国民そのものである。
通信インフラなくしてマルチメディア社会は到来しない。関係各位の猛省を望む。
<通信業界再編の構図>
グループ | <A> 総合通信 | <B> 無線系主体 | <C> 有線系主体 | |
中核事業者 | NTT | DDI | KDD&JT | |
加入者網 地域通信 | NTT地域会社 | |||
電力系地域会社連合 | ||||
長距離 | NTT長距離会社 (TWJ) | DDI | JT | |
国際通信 | IDC | ITJ | KDD | |
移動体 | 携帯電話 | ドコモG(グループ) | セルラーG&IDO | デジタルツーカーG |
PHS | NTT地域会社(パーソナルG&ポケットG&アステルG) | |||
衛星 | ドコモ | イリジウム | ICO | |
衛星通信 | NTT | (JCSAT) | (スーパーバード) | |
国際通信連合 海外キャリア | グローバルワン(独・仏テレコム、米スプリント) | コンサート(英BT,米MCI) | ワールドパートナーズ(米AT&T,シンガポールテレコム等) |
これを前提に、ドミナントNTT支配下の我が国に、真の意味の競争状態を招来するには、加入者網(NTT地域会社)、国際・長距離網(NTT長距離会社)、移動体網(NTTドコモ)それぞれに、互角に対抗しうる勢力を作り上げることが肝要である。これまでのように、NCC同士が過当競争を繰り広げ、NTTのみ蚊帳の外という愚は絶対に避けねばならない。
加入者網は電力会社(地域系キャリア)、国際・長距離網はKDDと日本テレコム、移動体網はDDIが主体となって推進するのがベターであろう。但し、電力の全国的な加入者網構築は新世紀になってからと思われ、移動体網(Bグループ)と国際・長距離網(Cグループ)とが今回の再編の主体となるであろう。
そして、インターネットを中心とするコンピュータネットワークの拡大・進展、衛星通信・放送(情報スーパーエアライン)の普及など、高度化・多様化する新たな通信メディアや、米国始め、英・独・仏キャリアが主体となって進める国際通信連合を巻き込んで合従連衡が繰り広げられるにちがいない。
<加入者網>
全国の各家庭に隈なく届いているインフラは、言うまでもなく電話と電気(水道やガスは一般に都市部のみ)。加入者網構築の可能性は、設備能力的にも資金的にも電力会社のみが有している。弱点は地域別に分割されており、PHSアステルで独自方式と依存方式が混在しているように、独立意識が強く、相互の連携が悪いことである。
当面はNTT地域会社のみが全国をカバーし、一部の大都市は電力系地域キャリアの加入者網が併存という形にならざるを得ない。
商社や日本テレコムが推進するCATV網の通信利用についても、小規模事業者乱立、赤字経営が大半の現状では可能性は乏しく、大きな勢力には成りえない。
加入者網の構築如何が次の再編の鍵であり、電力各社の発奮を切に期待したい。
鉄道・道路など光ファイバー設置のインフラを持たないDDIは、マイクロ無線でいち早く全国ネットを完成させたものの、高速・大容量のマルチメディア時代には不利を免れず。TWJとの提携も日の目を見ず、私鉄各社等の沿線で光ファイバー化を推進しているようだが、我が国では幹線部分は過剰ぎみですらあり、得意な無線系・移動体網に事業の重点を移すのがベター。主体となって推進したPHSの誤算からDDIポケットの救済に力を削がざるを得ず、余力も無いはず。
KDDが日本列島を取り巻く海底光ファイバー網敷設構想で、国内参入を表明したが、日本テレコムにも同時期の全国光環状網複線化構想があり、連携にむけ調整が必要。KDDの国内参入は日本テレコムの国際進出との相互補完がベター。
<国際通信>
国際通信分野も長距離と同じく、ここ数年NCCが僅かづつ伸びてはいるものの、KDDのシェアがほぼ70%で安定し、大きな変化は見られない。
これまでの動向からみて、NTTとIDC(国際デジタル通信)、DDIとITJ(日本国際通信)、日本テレコムとKDDの密着度が強いと思われる。さらに、NTT連合は独・仏両テレコムと米スプリントの「グローバルワン」と、DDI連合は英BTと米MCIの「コンサート」と、KDD連合は米AT&Tが中心となって推進する「ワールドパートナーズ」との連携を一層強めると思われる。
<携帯電話>
現在携帯電話はアナログ、デジタルそれぞれ2方式のサービスが提供されている。
1.5GHzは、大都市での需要増による回線能力不足を想定し、当初東名阪に限定して新規2グループに割り当てられた。ドコモは新規キャリアに技術力がないため、支援目的でサービスを開始した。もとより、全国ネットにするつもりはない。骨肉の争いを繰り広げるデジタルホンとツーカーが、地方で共同戦線をはってデジタルツーカーを設立したのは、単独では到底事業の目処がたたないこともあるが、商品力の根幹がサービスエリアであることにようやく気づいたからに他ならない。しかし、時すでに遅し。東名阪ですら、赤字脱出の目処のたたない状況でいまさらサービスを開始して果して勝算はありや。
東名阪のデジタルホンとツーカーは日本テレコム主導の基で合併せざるを得まい。
この他、携帯電話のシステムはデジタルだけでも欧州のGSMや、米国のCDMA、TDMA方式があり、ITU(国際電気通信連合)が推進する次世代移動電話の世界統一規格FPLMTS(フューチャーランドパブリックモバイルテレコミニュケーションズシステム )での採用、デファクト・スタンダード化を目指し、しのぎを削っている。現状ではCDMA陣営が優位か。
我が国ではセルラーグループとIDOがCDMA導入で動いており、今後両社の連携は一層強化される。FPLMTSが決まり、携帯電話とPHSを統合した新サービスが我が国で開始されるであろう2005年頃に次の再編の時期が来る。これまでにPHSキャリアを含めいったい何社が生き残っているであろうか。
<PHS>
泥沼状態に陥ったPHSは、もはや自力脱出は不可能と思われる。我が国独自のサービスして優れた特長(デジタルコードレス電話との共用、高速データ伝送等)を持つPHSサービスを存続させるには、パーソナル・ポケット・アステル3グループの大同団結しかあり得ないのではないか。
さもなくば、携帯電話との垂直統合(事実上携帯キャリアに吸収)が待っている。吸収される母体すら持たないアステルは(デジタルツーカーは自らの事業で手一杯)、自然消滅の道を辿るのか。
いささか荒唐無稽となろうが、京セラ・DDI稲盛会長の引退・仏門入りのニュースを耳にした時の私の直感は、稲盛会長はPHSの責任を取ったのではないか、そしてPHSの行方・DDIの行方を見定めるた上で「院政」を敷こうとしているのではないか、との思いであった。自らが第一線を退くことにで、NTTパーソナルを主体に(DDIポケットではなく)3グループの団結を図り、PHSサービスそのものを存続させる、その代わりNTTの地域分割の旗は下ろす。PHSはNTT地域会社が(NTTドコモではなく)面倒を見る。
悲しいかな、こんな妄想すら去来する我が国の現状である。
<衛星移動電話>
モトローラがイリジウム構想を提唱して以来、国際海事衛星機構を中心とするICO(アイコ、日本ではKDDが中心となって推進)やグローバルスター、オデッセイなどの計画が相次いで名乗りをあげた。DDIはいち早くイリジウムに賛同、98年秋のサービス開始に向け鋭意準備中である。ICOは99年末のサービス開始を予定し、KDDの他ドコモ、IDO、デジタルホンも参画。
ドコモは今春、国内でNTTの静止衛星N−STARを使ったサービスを開始したが、アジアでの衛星携帯電話事業にも参画し、98年夏にもサービスを開始する予定。
以上独断と偏見を承知で長々と憶測・私見を述べてきたが、本意はもとよりマルチメディア社会進展の根幹をなす、我が国情報通信業界の健全な発展を願うものであることをご理解いただき、失礼の段は平にご容赦いただきたい。
以 上