パソコンネットに遺されたDNA |
−「人の逆を行けば、うまくいく」亀太郎・鶴ひみこ共著より
先日、書店で「人の逆を行けば、うまくいく」−亀太郎・鶴ひみこ共著という本を見かけた。
亀太郎という名前に記憶があった。建設機械レンタルのパイオニアで、業界ナンバーワンの「レンタルのニッケン」の社長である。
同社はレンタルだけでなく、高所作業車や仮設トイレなど数々のオリジナル製品の開発企業として、またコンピュータ・ネットワークによるオープン経営をいち早く達成した企業として知られる。“職場ネーム”制度の導入などユニークな経営手法でも注目された。
もちろん、亀太郎は職場ネームであり、本名は岸光宏。
私は岸氏に一度だけお目にかかったことがある。20年近く前である。
当時私はトヨタ自販の産業車両部で、新規分野商品の企画を担当していた。この一つに豊田自動織機が米国企業と技術提携して開発した高所作業車があった。
米国では各種の高所作業にわざわざ足場を組むのでなく、高所作業車を利用する無足場工法が普及しつつあった。岸氏はこの高所作業車に我が国でいち早く着目、レンタルのメイン商品に据えるとともに独自商品の開発・製造も手がけていた。
この商談に、上司の河村課長(現豊田自動織機常務取締役)と当時の豊田織機取締役の3人で出向いたのである。岸氏のレンタル業界に関する慧眼と高所作業車に抱く情熱とに強く感服した記憶がある。
かれこれ20年近くたった今、氏の著書にめぐり合った。昨年他界されたことも初めて知った。誠に残念である。遅ればせながらご冥福をお祈りしたい。
この書は氏の妻である現レンタルのニッケン社長鶴ひみこ女史が、岸氏がパソコンネットで社員や関係者に発信した数万件にも及ぶ「考えや言葉」、それに関わるエピソードをまとめたもので、新たなチャレンジに向かう私にとっても、きわめて示唆に富む内容となっている。
岸氏のDNAがパソコンネットを通じ、書籍を通じ脈々と受け継がれて行く・・・
以下に抜粋して紹介する。
「人の逆を行けば、うまくいく」−亀太郎・鶴ひみこ共著より
◆我が社の自慢は情報システムです。現在、340万件の情報が社員全員参加で入力されています。一日2000から3000の情報が打ち込まれます。
◆情報をすべてオープンにすれば、シンプル・イズ・ベストを実現できます。
◆社長は敵より優秀な“武器”を社員に持たせることを、第一義に努力すべきです。
◆やりたいことを、やりたい方法で、やりたいだけ時間をかけてやれば、大抵のことはできるのではないかと考えています。
◆人の困っていることを解決する、それが“有料ボランティア”の精神です。
◆世の中で必要とされることを成すのが、商売の基本です。
◆真っ黒いカラスとなるとも、灰色の白鳥となるなかれ。
◆成長期にある会社は、社員の定着が高くない。
◆自分だけが得するのでは、成功しないでしょう。
◆商売の極意は「高く買えば物集まる。安く売れば人集まる」です。それに、「いい物をつくれば、人集まる」をつけ加えます。
◆個人と公人を分けましょう。
◆社長は社員の「母」になどなれないし、なる気もありません。もっと乾いた関係が理想。社長と社員は、役目で結ばれているだけだと考えます。その「乾いた」関係が好きです。乾いているからこそ、火花が散ります。
◆混乱は発展のもと。全てが整ってしまっては、活気がなくなります。
◆言葉は不完全なものと認識しましょう。いったことは半分くらいしか相手に伝わらないものです。人には思い込みがあるからです。これが仕事や人間関係を複雑にするのです。
◆皆、昔は何も知らなかったのです。勉強して、覚えていくのです。常に“ing”です。亀は不器用ですから、いまでも勉強して覚えています。若いときより、50歳を過ぎてからの方が、勉強しています。人間の一生にはいろいろな生き方があると思いますが、亀は生涯勉強することだと、心の底から考えています。
◆若い頃、他人にできて俺にできないはずがない、と思って頑張ってきました。ですが、いつも間違いだらけで落第。あるとき、一種のヤケッパチで「自分はこれしかできないのだ。だったら、好きなだけやろう」と思うようにすると、急に道が拓けたように感じられ、気がらくになったのです。亀はいくら練習してもカラオケもゴルフもうまくなりません。仕事しかできないと思っています。
◆いくらご馳走をそろえても、腹のへっていない人には意味がありません。社員一人一人に、勉強したいという心が満ちていなければならないのです。自分のこれからの一生を考えたとき、一日も早く基礎知識を覚えた方が得です。
◆人は望んだだけできます。望まないとできません。
◆「大丈夫、心配するな、何とかなる」
◆商売は人間への興味の塊であり、何度もリターンマッチが許される世界であり、長考自由、カンニング自由、相談自由です。だからこそ、あれだけ勉強ができず勤め人失格の亀に社長が務まってきたのでしょう。
◆日本人は、「すみません」「申し訳ありません」をいい過ぎます。謝らなければならないときは、理由や原因を述べ、それに対する対策、覚悟を述べるべきではないでしょうか。さもないと、基本的な解決方法にはなりません。
◆道を極めるためには、普通の人と一味違ったことをやらなければなりません。プロと素人の違いはそこから出てきます。人と同じことをやっていては、違いが出るはずがないのです。継続は力なり、石の上にも三年、念ずれば通ず、念ずれば花開くという言葉もあります。
◆人間、やさしいことをキチンと行うことができません。知っていることと実行することは別みたいです。子供の頃、大人というのはすごい人だと思っていましたが、いざ自分がそうなってみると、大人というのは本当にダメな人だなあと思っています。まずダメナンダナアと知ることからはじめましょう。亀は誰よりも自分のダメさを知っているつもりです。
◆「生きていくのに、三つのものがあればいいんだよ。希望、勇気、そしてサムマネーだ」
◆水は溜まっているとすぐに腐ります。同様に、同じことをしていると、人間はダメになります。心をいつも新しいものに向けてチャレンジしていれば、流れている水のように腐りません。昨日と同じことをやらないことです。少しでも工夫して、一味変える努力をすることです。川の流れを溯る魚のように、前向きに努力するのが亀の生きがいです。