「ゲームの経済学」メモ


赤尾晃一氏(元常磐大学講師、現静岡大学助教授)が日本工業新聞に95年2月から95年8月まで連載した「ゲームの経済学」の要点を私なりに整理・まとめたものです。
  1. 「シリウッド」…シリコンバレーとハリウッドの合成語。映画のようなゲーム、ゲームのような映画、インタラクティブ・ムービー。

  2. テレビゲームはすべてのゲーム(アーケード、パソコン、TVゲーム、電子玩具)の最終消費地

  3. テレビ受像機を表示装置として用いるには32ビット機のスペックは過剰気味
  4. ソニー(プレイステーション)とセガ(サターン)の設計思想
  5. 玩具流通もはや脇役、ディスカウントストア、TVゲーム専門店が主役に
  6. 日本的流通システムの特長

  7. SCE(ソニーコンピュータエンターテイメント)、PSの流通で4つの革命的手法を採用
  8. ゲームも再販が理想? 著作物(書籍、雑誌、新聞、CDなど)の再販指定は、「著作物の多様性の保証」という文化の保護・育成の観点が根底に。廉売が常態化すると、著作者の利益が守られず、ニッチな市場しか持てない専門書やマニア本などは市場からはじきだされてしまう。著作物の再販制度とは、経済活動の自由(競争原理)と文化的意義をはかりにかけた上での、高度な政治的判断のたまもの。

  9. メディア・コンプレックス(ゲーム・パソコンソフト、CD、ビデオ、書籍・雑誌を同一店舗で販売・レンタル)の伸長でゲーム専門店に影響必至。個性化を図って専門店として生き残るか、メディア・コンプレックスに打って出るか、転廃業するか。

  10. 「マチメディア」…マルチメディアの大半は絵に描いた餅。着実に普及するのは、「ル」が抜けたマチメディア。自宅に入り込む前に、まずはマチの高度情報化に使われる。
  11. パッケージ商品はそう簡単にはなくならない
    ゲーム、CDなど「遊び」の用途に使う消費財の場合、商品を購入する行為自体も「遊び」の一部。売っている店を見つける、行列に並ぶ、最も値段の安い店を探すといったプロセスから、「遊び」が始まっている。

  12. 「マチメディア」の典型は「マルチメディア・キオスク」でその基地が「コンビニ」ソフトをダイレクトに配信し、端末に蓄積されたソフトを消費者がテイクアウト。

  13. 「コンビニ」は店舗の情報ネットワーク化が最も進んでいる業態
    セブンイレブン・ジャパンは世界最大のISDN利用企業。公共料金の振込、チケット販売などのサービスは情報ネットワークの多重活用で可能。
    すでに出版物の15%(3500億円)はコンビニルートで流通。

  14. ゲームソフトの流通は中古売買主体、レンタルは業界のタブー(米国は早い段階で制度化)。根強い中古需要、実質的に疑似レンタル。ゲーム・オン・デマンドはレンタル制が不可欠。

  15. PPT(ペイパートランザクション)…映画興行の発想を取り入れたレンタル方式。レンタル店は、製造原価に近い価格(ビデオの場合は1500円程度)でソフトを仕入れ、レンタルの貸出回数をPOS端末などでソフトごとに単品管理。レンタルの売上をソフト販売元とレンタル店とが一定の比率で分け合う。
    cf 「レントラック・ジャパン」…PPT運営会社、CCCが米国と合弁で設立

  16. (衛星)放送は巨大なプロモーション効果を内蔵。ソフトの露出機会が増えると、パッケージ商品の売上増に結びつく。

  17. 情報ソフト産業(コンテンツ・ビジネス)の産業構造は4つの階層で構成される。情報ソフト産業の歴史は分業化の歴史だが、TVゲーム産業はメーカーが四層支配
  18. 「クレジット・ロール」…著作権には財産権の側面と人格権の側面が。財産権は第三者に譲渡できても、著作者人格権は譲渡不可。かかわった著作物に氏名を明記させる「氏名表示権」は著作者人格権の重要な構成要件

  19. コンテンツ・ビジネスの経験則…A級作品だけを狙いうちで出しつづけることは不可能。駄作、失敗作、B級作品の積み重ねの上に、ときどきA級作品が輩出されて、市場を牽引する。

  20. 遊びと労働は表裏一体、遊びのスタイルやルールそのものが、労働の「写し絵」
    「遊戯的人間」…遊びは労働の手段ではない。遊びそれ自体が内発的動機に基づく自己目的活動と化すことも多し。「遊戯」とは仏教用語で、一切の束縛を脱して自由自在の境地にあること
     cf 余暇(レジャー)=遊び=労働力の再生産

  21. パチンコ屋は工場、暇つぶしにあらず
    パチンコを支配しているのは、モノと財に依存した「工業社会(物質型文明)」の論理そのもの。急激に進む工業社会に自分たちを同化させるため日本人が生み出した学習装置。労働と同じ環境・道具立ての中で遊ぶことで、労働に必要な感性を磨いた。

  22. ゲームは生活必需品、不可欠の社会的装置、ゲームで学ぶ文明の作法。 コンピューターを相棒に仕事をせざるを得ない高度情報社会が必然的に生み出したのが、TVゲーム。コンピューターが理性を磨き感性に訴えかけ、コンピューターで処理された情報を中心に動いていく情報型文明。ゲームは新たな社会や文明が要求する労働のスタイルを学ぶための社会的装置。

  23. 遊びの「楽しさ」は「内発的報酬による楽しさ」
    「フロー」「はまる」…自己目的的経験の中に我を忘れて没入する感覚、状態
    cf「外発的報酬による満足」

  24. 「コンピューターはかつては『紙』であった。今は『神』である。」
    紙という媒体の代替物からメディア(神との交信の媒介者という語源もあり)に。

  25. マルチメディアの本質…個人単位。巨大な同人サークルの世界。
     cf マスメディアは集団の文化、万人単位
    「興味、関心、嗜好などが共通する人達だけに伝わればよい」という発想が根底にあり。一人から始まり、十人、百人、千人と共鳴の輪を徐々に広げていくという感覚。売れることは必ずしも目的ではなく、産業を形成できるかどうかは微妙。産業社会を超越し、ボランタリズム(自助精神)に支えられた情報型文明への転換を促すことが本質。

  26. マルチメディアはもともとはロックコンサートの一形式
    ステージ上で音楽を演奏するだけでなく、サイケデリックなスライドやビデオの投影などを組み合わせた、五感に刺激を与えるイベント。1960年代に米国で燃え盛った「対抗文化」の思想が色濃く影を落としている。新しいメディアで情報を発信していくことが、個人の精神の開放につながり、既存の社会秩序や文化(エスタブリッシュメント)の変革につながる。

  27. マクルーハン…「メディアは最初は『革命』として構想され、『産業』として社会システムの中に組み込まれた段階で『革命』は変質する。」

  28. アミューズメント空間は「ハレ」(非日常的体験)と「ケ」(日常的体験)が曖昧になった産業社会の中で、強烈な「ハレ」を維持していく空間。都市の中の孤独を癒し、暴力性や欲望を一時的に開放する空間。

  29. 家庭用マルチメディア端末の主役はパソコンかテレビゲーム機か
    テレビ(マスメディア)の延長線上にあるのか、パソコンや電話(パーソナルメディア)の延長線上にあるのかのコンセプトの戦い。

  30. マルチメディアは能動と受動のバランス
    インタラクティブ(能動的接触)はノン・インタラクティブ(受動的接触)スタイルの保管物(オプション)と考えるべき。

  31. 情報サービスの二面性

  32. 情報支出分析 家計調査より
    93年の一世帯当たりの年間消費支出は402万円、うち明らかに情報に対する支出は20万円(テレビ、パソコン等の購入経費含む)。構成比5%で1970年代からほとんど変化せず。情報化が進むと家庭が情報に対して支出できる所得の比率が伸びていくと考えるのは、あまりに楽観的。
    cf123兆円では教育費などを含めた93年の情報支出を67万円とした上で2010年には2.6倍の165万円に伸びると予想
      (他の消費支出は全く変化しないとの前提)

  33. 情報生活時間行動分析 ビデオ・リサーチ93年調査のメディア接触時間
    平日 休日 平日 休日
    テレビ聴取 2H56M 4H02M 雑誌、書籍読書 17M 26M
    新聞閲読 26M 21M VTR再生 11M 19M
    ラジオ聴取 26M 21M TVゲーム 7M 12M

  34. 「団塊孫世代」がマルチメディアっ子
    情報支出や生活行動時間分析からみて人間は意外と保守的。その人なりの生活の積み重ねの上で獲得した価値観や行動様式はそう急激には変化しない。
    団塊世代は大量消費文明を広げる先兵役を果たしたがゆえに、モノへの呪縛からのがれきれない。団塊ジュニア世代はモノへの呪縛は薄く、情報メディアをしなやかに使いこなす能力にたけているが、しばしば「タコツボ」のように狭い枠組みの中にのめり込んでいく性癖を持っている。
    あと数年たつと、ジュニア世代が結婚、子育てが本格化、「孫世代」こそマルチメディアの申し子(生まれた時から存在しているメディアは、何の抵抗感もなく当たり前のものとして自然に身についていく)。この世代が成人に達し、団塊ジュニア世代が社会の枢要につく2015〜2020年頃にマルチメディア社会は本格化


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