「ゲームの商品学」メモ
赤尾晃一氏が日本工業新聞に「ゲームの経済学」の続編として95年9月から96年8月まで連載した「ゲームの商品学」の要点を私なりに整理・まとめたものです。
マスメディアであり続けるのは、地上波テレビのみ…ブロードキャスティングその周辺に性格が異なるテレビメディアが共存…ナローキャスティング(BS,CS,CATV,デジタル衛星TV、インターネット)
マルチメディアとはつまるところ、家庭内情報メディアの主役の座を巡る、パソコンとテレビとの間の戦い。ディスプレーとモニターの戦い。
テレビの進化形とパソコンの発展形どちらが先に生活の中に定着するのか。
テレビ受像機を表示装置として用いるゲーム機は、テレビ陣営の切り込み隊長。テレビに欠けていたインタラクティブ性を付加。3万円前後という低価格、パッドに代表される親しみやすいインターフェイスが大きな武器。
デジタル衛星放送、双方向CATV、家庭用通信カラオケといった援軍を引き連れ、インターネットなどパソコン陣営の主力に対する切り崩し工作も盛ん。
パソコンの弱点は、ムーアの法則(半導体の集積度は18ヵ月毎に2倍になる)。日用品として生活に定着する大きな足かせ。(製品の陳腐化、買い換えの慢性化)ゲーム機も例外でないが、価格が安く「しかたがない」とあきらめがつきやすい。ゲーム専用のためゲームの処理性能ははるかにパソコンを凌ぐ。これまでゲーム機の情報家電的発想の成功例は皆無だが、今後は予断を許さず。
パソコンとテレビの違い
・パソコン…見つめるメディア(集中:コンセントレーション)、創作
・テレビ …眺めるメディア (弛緩:リラクゼーション)、鑑賞
cf ネットサーフィンはテレビに近い
ゲームバンクの野望(マイクロソフトがソフトバンクと合弁で作ったウィンドウズ95対応ゲームソフトの流通会社)。パソコンが家庭というマーケットに確実に食い込むためには、ゲームソフトの取り込みが不可欠。
情報化の「は行性」
・「表層の情報化」…技術の論理に基づくシステムやサービス、幾何級的に進展
・「深層の情報化」…生活者の意識レベルの情報化、簡単には変化しない
情報化というのは、単に情報通信機器が社会に浸透する、生活の利便性が向上するという次元の話ではなく、生活者の営みがどう変わるか、モノに対する感受性がどう変わるのか、人と人との関係の結び方がどう変わるのかという情報メディアとの関わりにおける生活文化や生活意識の変容のこと。
「は行性」の溝を埋めるのが「遊び」の世界
深層の情報化を突き動かすのは、結局は「遊び」、遊びこそが情報化の原動力。コンピューターの社会的な普及は、まずテレビゲーム機で。500ドルパソコン、インターネット家電の本命はテレビゲーム機か。
ゲーム作りも「ライン」、独創性は今どこに。
「自己表出型コミニュケーション」 cf 情報伝達型
送り手は何かを伝えたい、伝えなければと思っていない。とにかくメッセージを送りだすことで、自己陶酔に似た「めまい」を感じるのが目的。
カラオケ、ゲーム、パソコン通信、ユースレスホームページ etc
遊び(メディア)の「雪だるまの法則」 ex 映画、音楽
新しいメディアが登場しても、旧来のメディアが滅びることなく、役割分担で棲み分けを図りつつ共生していく。
マルチメディアで流通の「中抜き」が起きる訳でない。それは経営努力をしない流通業者が淘汰される、という意味。マルチメディアうんぬん以前に、競争原理が機能するようになると当然起きる現象。
情報化社会、人はますます人に会いたくなる。生活者は「地を這う」回線にぶら下がった猿回しの猿になるよりは、「空から降る」回線でつながり会うノマド(遊牧民)を志向する。
「情報スーパーハイウェー」は死語に、「情報スーパーエアライン」時代に。
コンビニ…子供にとっては昔の「駄菓子屋」、若者にとっては「冷蔵庫兼情報倉庫」老若男女が時間を問わず集まる場所。
大手は全国津々浦々に5000店を超える店舗を抱え、その全てがISDN回線でネットワークされている。かつてのディスクファックスと類似の書換えサービスを行う店頭設置型端末(キオスク)の運用に最適。
「アジール」…不特定多数の人々が出会い、心の救済ができる都市空間のなかの聖域パソコン通信やインターネットの中で形成されているサイバースペース(電脳空間、時間的空間的制約を超越)は現代人にとってアジールそのもの。
コンビニ流通への懸念。中小ショップに動揺、コンビニはアジールたりうるか。(ゲームソフトという非日常的商品を購入する気分になれるか)
スクウェア…デジキューブ設立。セブンイレブン、ファミリーマート、サークルK。専用機器とテレビモニター、パーフェクTVでゲーム情報提供。原則コンビニに独占供給
任天堂 …ローソン(予約のみ、在庫無し)。既存ルートの補完。
泥沼の仁義無き戦い、利益がない新世代機戦争。(プレイステーション、サターン、NINTENDO64)
ゲームソフトのみでなく、ビデオ、CD、コミックなどもレンタルでなく中古売買(疑似レンタル)が究極のスタイルに?
バイバック(買い戻し)システム…その店舗で購入した商品にラベルを貼ったり、専用のレシートを発行し、購入後その店に商品を持ち込むと「一週間以内は購入価格から500円引き」などの有利な条件で買い戻しに応じる。
cf 米国、「ファーストセル・ドクトリン」が明文化
ゲーム市場、6740億、対前年比3%増と「停滞状態」。(96年版レジャー白書)ゲーム離れを食い止め、ゲーム人口のすそ野を拡大する方策を考えない限り、市場は現状維持からやがては「縮み」に。新世代機はゲーム人口のすそ野拡大に貢献せず。テレビゲームへの参加人口も3020万人(参加率28.6%)と横ばい。
ゲーム機ビジネスはソフトでハードの差損を帳消しにする「ハード・ソフト一体のビジネス構造」。これが利益無き繁忙の要因に。CDやビデオなど他の娯楽消費財と同様、消費の最前線ではハードとソフトの分離が徐々に進行中。
テレ朝買収は普遍性と特殊性(テレ朝の)の両面で起きたM&A戦略の結節点。
・普遍性…メディア融合、ボーダレス化、コンテンツ志向
・特殊性…朝日新聞と出版資本(旺文社)、映画資本(東映)の共同経営
cf 日テレ、TBSは一部上場。フジとテレビ東京は新聞単独系列。今後も日本で同質の出来事が頻発し、放送産業の抜本的再編成につながっていくとは考えにくい。
放送事業は3つの機能の複合体
インフラ産業 …送信設備の設置と維持管理
ディストリビューター…放送時間枠管理、番組・広告調達、番組編成
ソフト制作会社 …自局制作、外部発注の場合のプロデューサー機能
マイクロソフト、任天堂、野村の合弁(衛星デジタル音楽放送セント・ギガのデータ放送帯域を使い情報と娯楽の融合したインフォテインメントを流す)は弁慶の泣きどころを互いに補い合うもの。ソフトバンクの究極の狙いも衛星データ放送か。(いずれも情報スーパーエアラインを目指した合従連衡とみるのが適切)受信端末、文書形式、情報量の3つが事業の成否をわけるポイント。
・マイクロソフト…MSN低空飛行
・任天堂 …セント・ギガ苦戦
・野村 …ファミコンの株式情報サービスの継続重荷
ここ1年の様々な動きは、ゲームという商品を巡る各社の思惑や基本理念(プラットフォルマ)の闘いを浮き彫りに。
・任天堂…「ゲームという商品は、ある日突然に需要が消えかねない『うたかた』の存在である」
・セガ …「ゲームこそが21世紀を拓くデジタル・エンタテインメントである」
・任天堂 …「ゲームはどこまでも玩具である」
・スクウェア…「ゲームは映画を超える表現手段に昇華する」
・ソニー …「ゲームはハードウェアによって規定される部分が大きい。ハードウェアのプラットホーム・ホルダーがイニシアチブを握るべき」
・スクウェア…「ソフトの開発者こそが、流通でもイニシアチブを取るべきだ」
・『商品』…「ゲームは商品であり、ゲーム会社という組織がハンドリングすべし」
・『作品』…「ゲームは最終的にはクリエーター個人の表現物としての作品である」
・「ハードの進化」に応じて発想したゲーム
・「表現内容」から煮詰めていった、ハードに依存しないゲーム etc
(96.11)
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